お孫さんの花嫁姿とおばあちゃんの愛情
皆さんからご投稿いただいた、
身近にある「おみごと!」を感じられるストーリーを紹介します。
むかし老人ホームで働いていた時「おばあちゃんに、花嫁姿をどうしても、見せたい」と利用者さんのお孫さんから頼まれて、結婚式場に付き添ったことが一度だけある。
90歳をこえて認知症もあり、歩行することが難しく、車椅子での移動だったので施設から送っていった。親類やたくさんの方が集まって口々に「おめでとう」とか「お久しぶりです」と声をかけているのに『はじめまして』と利用者さんが言われるたびに、周囲の方は戸惑っておられるのが表情で伝わってきて、少しの間だけなのに、付き添っていても、私の方が、いたたまれなくなった。
けれどお孫さんの花嫁姿をみて「U子ちゃん」とお孫さんだけは、はっきり覚えておられた。忙しく働く娘さんにかわって、小さい頃は自宅で預かって、大変かわいがっておられたとお孫さんからも伺っていた。
何より数年前に、その孫のお母さんである実の娘さんを亡くされたことが、うつ病や認知症を悪化させるきっかけになっておられる方だった。
だからキーパーソンは、他の子供さんではなくて、お孫さんがつとめてくださっていた。
お孫さんから花束を渡されて、しっかり受け取って、泣いておられる様子を見た時に、お連れ出来て本当に良かったと私もこころから思った。
認知症は何もかも、一度に忘れてしまう症状ではなく、その人の抱いている感情、とくにその人らしい愛情や昔の記憶はのこりやすい。
ホームに戻るとスタッフから「良かったね、お孫さんきれいだったでしょう」と声をかけられても『知らん』と言って忘れられていた。でも後で、お孫さんと2人の写真を見て、うれしそうにされていた。娘さんの写真と一緒に、大事に、だいじにされていた。
その人の人生の、ほんのいっときの時間に、立ち会って願いを叶えたりすることも出来る仕事なのだと、私に教えてくれた出来事だった。
介護の仕事は、暮らしやその人の感情に密着しているから、時につらいことも悲しいことも、たくさんある。でもほんのいっときでも、その人の人生が輝く瞬間に立ち会えるそんな仕事であると思っている。
(X/こずえちゃん @kozukozu1017)